意見表明
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愛知県労働委員会が、労働基本権を擁護する機能を十全に発揮するために、
公益委員の任命に関する姿勢を改めることを求める意見
意見の趣旨
都道府県労働委員会においては、労働問題に関する専門的な知見を有する委員(特に公益委員)が不可欠であるにもかかわらず、愛知県においては長年にわたって労働法研究者を公益委員に任命しないという「慣行」が続いている。労働問題への専門的知見を有する労働法研究者を公益委員に任命することは必要不可欠であり、今後の愛知県労働委員会委員の任命にあたっては労働法研究者を任命するように求める。
意見の理由
1 労働委員会は、労働関係調整法上の争議調整と労働組合法上の不当労働行為救済を担う、集団的労使関係の専門的な紛争解決機関である。
労働委員会制度には、①労働関係上の紛争ないし問題を専門的に取扱うものとして設置された独立性を有する合議制の行政委員会であること、②労働委員会に労使関係の専門機関たる実質を与えるために、公益・労働者・使用者の代表者による三者構成という委員構成を取っていること、③準司法的権限と調整的権限とを併存していること、④中央労働委員会と都道府県労働委員会の二層構造となっていること、という特徴がある。
都道府県労働委員会は、都道府県知事所轄の機関として各都道府県に設けられるが、労働委員会は独立の行政委員会であって、労働組合法及び労働関係調整法に規定する権限を、所管機関の指揮命令を受けずに、独立して権限を行使するものである。
2 愛知県労働委員会(以下「愛労委」という。)については、不当労働行為救済申立て事件に関する命令の妥当性について、少なくない労働組合から批判的な意見が寄せられている。また、愛労委の、審理の過程における硬直的な運用、和解に対する姿勢についても、疑問の声が上がっている。
特に、使用者が従来の労働協約を解約したことについて労働組合が不当労働行為として申し立て、愛労委の主導のもとで和解が成立した、南医療生協事件について、当事者から愛労委に対する厳しい批判が寄せられている。この事件の和解の過程でもっとも大きな問題となったのは、新入職員に対する研修の機会に、労働組合の組合説明会の実施をどのように保障するかということであった。この点について、ガイダンスの1日目の昼休みに実施することで合意が成立した。にもかかわらず、使用者は、新入職員研修の際に「労働組合に加入するかしないかは自己責任」などと記載し、あたかも労働組合に加入することによって不利益が発生する可能性があり、その場合は加入した者の責任かであるかのような文書を配布した。労働組合の抗議に対して、使用者側は、当該文書は労働委員会の助言に基づき作成・配布したものであると回答した。労働組合からの確認に対して、愛労委は、使用者側から文書の原案が示され、審査委員(公益委員)及び労使両参与委員が関わって、使用者が作成した「加入をお勧めする趣旨ではありません」という原案を、「加入するかしないかは自己責任」に修正するよう意見をした、ことを認めたということである。
このような愛労委の関与に関して、労働組合から、和解の経過で重要な問題が当事者に知らされないまま進められたという手続上の公平性に関わる問題が指摘されるととともに、新入職員に労働組合の加入を躊躇させるような文書の作成に愛労委が関与していたことについて、抗議の声が上がっている。
当弁護団も、南医療生協事件における、使用者が配布した極めて問題のある文書の作成に、愛労委が関与したことについて、団結権を擁護し、不当労働行為の救済、紛争の調整にあたるべき労働委員会として許されないものであると考える。
3 このような愛労委の審理、和解、判断の問題点は、愛労委が、労働問題に関する紛争解決機関、紛争調整機関として十分に機能していないという評価を生み出している。現に、労働組合関係者からは、「愛労委に申し立てても意味がない」などとして、愛労委を利用することを回避するような声も出されているのである。
4 愛労委が、労働基本権を擁護し、不当労働行為の救済、争議調整において、その機能を十全に発揮するためには、労働組合法、労働関係調整法の趣旨に基づいて、公益、労働者、使用者の三者の労働委員が、その専門的な知見を発揮していく必要がある。また、労働委員会と労働委員会事務局の役割分担を明確にした上で、愛労委が労働委員会事務局を活用することが必要である。
そのためには、とりわけ、公益委員が労働問題に関する十分な知見を持ち、議論をリードしていくことが必要である。
ところが、愛知県においては、長期間にわたって労働法研究者が公益委員に任命されておらず、「労働法学者は公益委員になれない」かのような「慣行」が成立している。労働委員会が、不当労働行為救済事件や争議調整にあたる場合には、各地の労働委員会の決定例、中央労働委員会の動向、裁判所の判例などを参照する必要があり、労働法研究者が委員となることで理論的な基盤が提供され、他の公益委員の判断の参照となることは明らかである。中央労働委員会においても、労働法研究者が会長、副会長に任命されているし、各地の都道府県労働委員会においても、労働法研究者を公益委員に任命することが当然のように行われており、労働法研究者の確保に苦慮している自治体もあると言われている。
愛知県には、法学部を設置し、労働法研究者が在職している大学が複数存在しており、労働法研究者を労働委員会委員に任命することについて条件的な困難はない。にもかかわらず、労働法研究者を労働委員会から排除し、労働委員会委員(特に公益委員)が専門的な知見を十分に発揮することができないままに、労働委員会の本来的な機能が損なわれているという事態は極めて深刻であると言わざるを得ない。
5 当弁護団は、愛知県知事に対し、愛労委に対し、労働基本権擁護という本来的な責務に十分応えていないという批判が寄せられているということを直視し、労働委員会委員の専門性を高めること、特に公益委員に長年にわたり労働法研究者が任命されないという事態を改善することを強く求めるものである。
以上
警察による全日建関西地区生コン支部に対する権力弾圧に対し強く抗議する声明
1 2018年7月以降、全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下「関西生コン」という)に対する刑事弾圧が強まっている。大阪府警・滋賀県警により現在までにのべにして50名をこえる組合員・組合役員を逮捕され、一部のものは長期の勾留に服し、また起訴されて刑事被告人たるを余儀なくされている。
2 起訴された組合員らについて成立するとされている犯罪は恐喝未遂や威力業務妨害等である。被告人の中にはあいまい不明確な「共謀」を理由として起訴されているものも多数存在する。
しかし、公訴事実を前提としてすら、これらの犯罪の実行行為があったとは到底評価できない。
各事件において、恐喝や威力業務妨害等として指摘されている行為は、実態としては労働組合が通常要求を貫徹するために通常行う説得や教宣活動・ストライキに通常付随する程度のものでしかない。
かかる行為に対して逮捕及び長期間にわたる身体の拘束等を行うことが許されるのであれば、およそ労働組合が行う労働組合活動のすべてが事実上不可能となり、憲法の労働基本権保障は崩壊する。
3 そもそも、憲法28条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利はこれを保障する」と定めるところ、これを受けて労働組合法はその1条で刑事免責の原則を定めている。したがって、仮に労働組合の活動が犯罪構成要件を充足するものであった場合であってすら、なお、その態様等に照らし刑事免責の適用の有無が慎重に検討されなければならない。
本件において、警察・検察がかかる慎重な検討を行った様子は全くうかがわれない。むしろ、警察・検察のこの間の姿勢を見れば、警察・検察はあえて憲法及び労働組合法の上記定めを無視し、労働組合に対する弾圧を当然視しているとしか評価できない。
4 以上のとおり、本件は、治安の名に名を借りて憲法秩序の内実そのものを破壊しようとするものである。
かかる姿勢が看過されれば、労働者の権利は憲法・労働組合法成立以前の暗黒時代に押し戻される。我々は、かかる事態を絶対に容認できない。
よって、東海労働弁護団は、かかる刑事弾圧に強く抗議し、この声明を発する。
新たな外国人労働者受入れ制度を定める出入国管理及び難民認定法の改正に対する意見
【意見の趣旨】
政府は、2018年6月15日、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(いわゆる「骨太の方針」)を閣議決定し、深刻な人手不足を背景として、これまで「単純労働」に分類して在留資格を認めていなかった分野で、外国人労働者を受け入れる方針を明らかにした。そして、11月2日には、新たに「特定技能1号」(相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務が対象。)、「特定技能2号」(熟練した技能を要する業務が対象。)の在留資格を創設することを柱とした「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出した。
現時点では、「特定技能1号」及び「特定技能2号」の受入れ基準が明らかにされておらず、受入れ人数についても「見込み」が示されるだけで、中長期的な視点での受入れ人数の方針さえ明らかにされないにもかかわらず、2019年4月から新制度を開始することを前提にした審議が始まっている。
政府が導入しようとしている新しい外国人労働者受入れ制度(以下、「新制度」という。)は従来、専門的・技術的に分類しなかった業種で、外国人労働者の受け入れを開始するという意味で入管法の歴史的な転換であり、今後も人手不足を背景に外国人労働者の需要は伸び続けることが想定される。
日本では、現在でもすでに約128万人の外国人労働者が働いており、そのうち約39万人(外国人労働者全体の30.2%)が製造業に従事している。東海地方(岐阜、静岡、愛知、三重)では、約23万人の外国人労働者が働いており、そのうち約6万人は、技能実習生である。
技能実習制度は、地方の中小企業の労働力不足を補うための労働者受入れ制度として機能してきたにもかかわらず、途上国への技術移転という名目が維持されてきたために、原則として職場移転が認められていない。そのため、技能実習生の在留の許否は、実質的に使用者に依存することとなり、仮に職場で旅券の強制管理、貯金の強制管理、長時間深夜労働、最低賃金法違反等の常軌を逸した人権侵害にさらされても、帰国させられる結果を恐れて権利行使を躊躇する傾向にあり、この仕組みが深刻な人権侵害の温床ともなってきた。
東海地域においても、特に縫製工の職場において、技能実習生から朝から深夜に及ぶ長時間労働を強いられた上に、最低賃金も支払われず、使用者に未払賃金を請求したところ使用者が破産して、結局、最低賃金の保障もされず帰国させられるという事態が繰り返されている。
技能実習制度の建前と実体の乖離は、日本の人手不足がさらに深刻化する中、毎年拡がる一方であり、今後も解消する見通しはない。技能実習生を特定の使用者に依存させ、労働者としての権利を保障しない技能実習制度は、速やかに廃止するべきである。
東海労働弁護団は、技能実習制度を維持、あるいは拡大したまま新たな外国人労働者受入れ制度を設けようとする、「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案」に強く反対する。そして、外国人労働者を、人権が保障された労働者として受け入れる制度を構築するために、抜本的な議論を行うことを呼びかける。
【意見の理由】
1 新たな制度は技能実習制度の廃止と合わせて検討すべきである
現在、日本では、単純労働者は受け入れないという建前のもと、既に約128万人の外国人労働者が働いており(「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(平成29 年10 月末現在))、そのうち約39万人(外国人労働者全体の30.2%)が製造業に従事している。
東海地域(岐阜、静岡、愛知、三重)では、約23万人の外国人労働者が働いており、そのうち約6万人は技能実習生である。
技能実習制度は、制度設立時から、日本の技術を途上国へ移転することにより国際貢献を図る制度であるという名目を堅持してきたが、実体としては、地方の中小企業の労働力不足を補うための労働者受入れ制度として機能してきた。
「技能実習制度は途上国への技術移転である」という名目が維持されているが故に、技能実習生は、同一の事業所で技術を習得することが想定され、原則として職場移転が認められていない。技能実習生には、使用者の倒産、使用者の不正行為等、技能実習生に帰責性がなく、同一の事業所で技能実習を継続することが出来なくなった場合には、一定の要件の下で職場移転を認められているが、不正行為等の立証が困難な場合や、新たな移転先が見つからない場合等、実質的に職場移転が認められず、帰国を余儀なくされる場合もある。そのため、技能実習生の在留の許否は、使用者に依存することとなり、仮に職場で旅券の強制管理、貯金の強制管理、長時間深夜労働、最低賃金法違反等の常軌を逸した人権侵害にさらされても、帰国させられる結果を恐れて権利行使を躊躇する傾向にあり、この仕組みが深刻な人権侵害の温床ともなってきた。
実際に、東海地域においても、特に縫製工の職場において、技能実習生から朝から深夜に及ぶ長時間労働を強いられた上に、最低賃金も支払われず、使用者に未払賃金を請求したところ使用者が破産して、結局、最低賃金の保障もされず帰国させられるという事態が繰り返されている。
このような技能実習制度の建前と実体の乖離は、日本の人手不足がさらに深刻化する中、毎年拡がる一方であり、今後も解消する見通しはない。
したがって、技能実習生を特定の使用者に依存させ、労働者としての権利を保障しない技能実習制度は、速やかに廃止するほかなく、技能実習制度を維持したまま、あるいはさらに拡大して、新たな外国人労働者受入れ制度を設けるべきではない。
(1) 職場移転の自由について
上記のような技能実習制度の反省を踏まえ、新たな外国人労働者受入れ制度を構築するとすれば、特定の使用者に在留を依存させることがないよう職場移転の自由を名実ともに保障しなければならない。
この点、「特定技能1号」、「特定技能2号」の外国人労働者は、同一職種の範囲中で転職することは認められるとされており、技能実習生のように自発的な職場移転が一切認められないわけではないとされている。
しかしながら、職場移転の自由を実質的に保障するためには、単に制度上職場移転が禁止されないというだけでなく、日本語での情報収集が困難な外国人労働者に対しても、ハローワーク等の公的機関によって、移転先となる職場の情報等が十分に提供され、実質的に職場移転の自由が保障されなければならない。
また、職場移転の際、入国管理局において必要とされる手続きについても、予め外国人労働者に周知されなければならず、入国管理局における手続きが職場移転を抑制する結果にならないよう十分配慮されなければならない。
仮に、職場移転について十分な情報提供がなされず、入国管理局における手続きも煩雑となった場合、手続きに悪質なブローカーが介入する事態を招き、その結果、外国人労働者の権利利益を損なう恐れがある。
したがって、転職の支援はハローワーク等の公的機関によって行われる必要がある。
(2) 外国人労働者の送出し国における悪質なブローカー対策
現在、技能実習制度のもとでは、来日に先立ち、技能実習生が本国の送出し機関に高額な手数料を徴収されたり、逃亡防止目的等のため高額な保証金を聴取される例が少なからず報告されており、技能実習生は、入国時から高額な借金を抱えており、借金返済のために不法就労をするに至ることもある。
このような事態に対し、国は、これまで実効的な策を講じていない。
新たな制度の構築にあたっては、送出し国との条約ないしは協定等により労働者の募集、選抜、使用者とのあっせんを担う機関を公的機関に限る等、送出し国において不当に高額な手数料や保証金を徴収することがないよう実効的な方策を講じるべきである。
(3) 外国人労働者の家族の帯同
現在の技能実習制度は、最長5年間の滞在が可能であるにもかかわらず、名目上、日本の技術を習得して本国へ帰国してこれを活かすための制度であるとして、家族を帯同することが許されていない。
このような名目自体、既に正当化できる状況ではないが、新制度においては、技能実習修了者が「特定技能1号」の在留資格でさらに滞在を継続できることとされており、最長5年間の技能実習と最長5年間の特定技能で通算10年間もの長期にわたり日本に滞在することができるようになる。にもかかわらず、その間、家族を帯同することが許可されていない。「特定技能2号」については、家族帯同が許されるとされているが、そもそもいかなる要件の下で「特定技能2号」の在留資格に移行できるのかも明らかでない。
これでは、家族分離を強いる期間があまりに長期に過ぎ、外国人労働者一人一人が生活者であるという視点が欠落していると言わざるを得ない。
外国人労働者がより短い滞在期間の内に家族との統合が図られるよう家族帯同の基準を見直すべきである。
(4) 適正な労働条件の確保
労働基準法3条は、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的扱いをしてはならない」として均等待遇を定めている。新制度においても、受入れ機関が日本人同等以上の報酬を支払うことが形式的には求められている。
しかしながら、技能実習生の例をみても明らかな通り、日本人との均等待遇の保障どころか、最低賃金法違反の事例が厚生労働省からも毎年報告されるなど、労働関係法令さえ遵守されていない状況があり、新制度においても、このような深刻な状況に対し、従前から行われてきた労働基準監督署による是正指導、法令の周知等の対応策以上に何ら抜本的な施策が示されていない。
このような状況は、公正な労働市場を確保する上でも、日本人労働者の労働条件向上を図る上でも弊害である。
したがって、新制度では、労働関係法令の遵守と日本人との均等待遇が実効的に担保されるための方策が伴わなければならない。
(5) 外国人労働者の支援
新制度は、日本の人手不足を補うため、多数の外国人労働者を受け入れる制度であり、かつ、受け入れた外国人労働者が日本で生活することとなることから、外国人労働者を生活者として受け入れ、医療、教育、法的サービス等の様々な側面からの支援が求められる。
現在の法案では、「登録支援機関」が外国人労働者に対する生活ガイダンスの提供、日本語の習得支援、相談・苦情対応、行政手続きの情報提供等の支援活動を担うとされているが、このような活動を担うことのできる体制が必要である。
この点について、技能実習制度のもとでは、監理団体が制度上は実習実施者(使用者)を監督・指導し、技能実習生の保護を図ることとされているが、監理団体は、傘下の実習実施者から徴収する管理費で財政的に成り立っており、監理団体の長が実習実施機関の長を兼務している例もある等、実習実施者を監督・指導できる体制が担保されていなかった。それどころか、監理団体が実習実施機関とともに、使用者にとって都合の悪い技能実習生を強制的に帰国させる等、悪質な人権侵害に加担している事案も少なからず報告されている。
また、「登録支援機関」の支援の内容には、「相談・苦情対応」が含まれるが、そうであれば、これらの支援を担う者には、弁護士の関与、守秘義務の担保が求められることになる。
したがって、単に登録支援機関を定めるだけでは足りず、外国人労働者の支援が現実に担える体制を整えさせなければならない。現に就労する外国人労働者のみならず、家族に対しても十分な支援がなされる体制を整えることが必要である。
(6) 多文化共生政策
すでに日本には、約128万人の外国人労働者が居住しているにもかかわらず、国として多文化共生政策をまとめた法律は存在しない。
例えば、愛知県が「あいち多文化共生推進プラン2022」を策定する等、外国人労働者を多数受け入れてきた自治体においては、必要に迫られ、独自に、あるいは、同じように外国人が集住する自治体と連携し合いながら、多文化共生の地域づくりを進め、国に対しても、中長期的な視点に立った外国人の受入れ方針の策定や、国としての総合的な多文化共生策の策定を求めてきた。
しかしながら、国がこれらの求めに応じてきたとは言いがたく、国による中長期的で総合的な方針が欠け、財政的な裏付けも乏しい中、自治体の取り組みには困難が伴い、政策の内容については地域差も大きい。
新たな制度の構築にあたっては、より一層多くの外国人労働者を受入れることとなるのであるから、多文化共生推進に向けた基本法を制定する等、国として多文化共生政策を推進する体制を整えなければならない。
以上の通り、政府が来年4月から導入しようとしている新制度については、技能実習制度の廃止が伴っていないこと、新制度それ自体としても検討が不十分な点が多いことから、法案審議を拙速に進めるべきではない。
そして、外国人労働者の受け入れる新たな制度を構築することを、中長期的な視点に立って正面から議論するべきである。
正当な労働運動を破壊する「共謀罪」創設に反対する声明
政府は、2017年3月21日、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」(共謀罪法案)を閣議決定し、衆議院に提出した。
この法案は過去3度にわたり国会に提出されたものの世論の批判を受け廃案となった共謀罪法案とその本質において同一のものである。共謀罪の本質は、犯罪の謀議の段階で処罰しようとするものであり、まさに「思想や内心の自由」を取り締まり、国家権力による思想・言論統制や労働組合の弾圧に利用される危険が極めて高いものである。
東海労働弁護団は、労働者・労働組合の正当な活動を制約するおそれの高い共謀罪の創設に対して、強く反対する。
現在政府が提出しようとしている法案は、長期4年以上の懲役又は禁固の刑を定める277の犯罪について、組織的犯罪集団の団体活動として、当該行為の遂行を二人以上で計画した者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の準備行為を行ったときは、5年又は2年以下の懲役又は禁固に処するとしている。すなわち、二人以上で一定の犯罪の「共謀」(犯罪の合意)をし、その中のいずれか一人でも「準備行為」を行えば、「準備行為」を行っていない者も共謀罪により処罰することを容認するものである。
政府は、「組織的犯罪集団」に対象を限定すると説明するが、恒常的にテロ等の犯罪を標榜する組織に限定されているわけではなく、政府の説明では、「もともと正当な活動を行っていた団体も、結合の目的が犯罪を実行する団体に一変したと認められる場合には組織的犯罪集団に当たる」とされているのである。そうだとすれば、適法に結成された労働組合であっても、一定の犯罪の「共謀」が存在したと捜査機関が判断すれば「組織的犯罪集団」と認めることが可能な概念となっている。そうであれば、「組織的犯罪集団」に変じていないかという名目で、何ら共謀行為を行っていない労働組合であっても日常的な監視の対象になる危険が存在することは明白である。このような危険は、正当な組合活動に対する萎縮効果をもたらす。また、「準備行為」という概念も、何をもって準備とするかが曖昧で、捜査機関の判断によって犯罪と無関係な行為も「準備行為」に当たると判断され、捜査の対象となり得る。
とりわけ、当弁護団が危惧するのは、この法案が成立した場合に使用者や政府がこれを悪用し、労働組合のあらゆる活動が捜査や弾圧の対象となりうることである。例えば、労働組合が不当解雇撤回などを求める企業門前での抗議行動を計画してチラシを作成することや労働組合がストライキを計画して組合員への連絡文書を作成すること、労働組合が「ブラック企業」の製造する商品の不買運動を計画して記者会見の資料を作成すること、労働組合が団体交渉で要求を貫き何らかの妥結ができるまで交渉に応じるよう使用者に要求し続けることを組合内部の会議で確認すること、政府の労働法制改悪反対の行動を企画することなど、これらはいずれも正当な労働組合の活動にかかわる行為である。
しかし、これらの正当な組合活動についても、ひとたび共謀罪が創設されれば、「組織的な威力業務妨害」「組織的な信用毀損・業務妨害」「組織的な強要・組織的な逮捕監禁」「組織的な恐喝」などの「共謀」および「準備行為」をしたものと作出されて捜査され、組合員が逮捕されたり組合事務所が捜索・差押えされたりする危険がある。過去にも、捜査機関により労働組合員が犯罪を作出されて逮捕されるという刑事弾圧事件は枚挙にいとまが無く、歴史的にみれば労働運動の弾圧に共謀罪が利用される可能性は極めて高い。一旦共謀罪が悪用されると、結果的に共謀罪を根拠に立件された事件について裁判所が無罪判決を出したとしても、正当な組合活動に対する萎縮効果が生じ、労働組合が壊滅的な打撃を受けるのは必定である。
また、「共謀」を立証するためという口実で、捜査機関が日常的に労働組合や企業内部にスパイを送りこみ、電話の盗聴やメールを監視するという捜査手法が正当化され一般化してしまうおそれがある。現在は表現の自由のもと、労働組合内部であらゆる議論をすることが可能であるが、ひとたび共謀罪が成立すれば、共謀罪での摘発の危険をおそれ萎縮し、労働者が労働組合に入ることを躊躇するようになりかねない。現在は禁止されている室内の会話盗聴が通信傍受法の改正によって可能とされてしまえば、最早、労働組合は、室内で会議を行うことさえままならないであろう。2014年7月には、大垣市の山林で中部電力子会社のシーテックが計画していた風力発電事業をめぐり、計画に反対する住民らの動向や個人情報を大垣警察が同社に漏らしていたという事件が起こった。この事件の存在も、警察を含む国家権力が、大企業に味方をして労働組合を監視し、その情報を企業に漏らす危険を示している。共謀罪は、こうした危険をさらに増大させるものである。労働組合が監視の対象になれば、労働組合の団結自体が危機に陥ることになってしまう。
このように、共謀罪は労働者・労働組合の正当な活動に対し国家権力が日常的に介入することを可能にするものであって、憲法で保障された労働基本権を骨抜きにするものである。
東海労働弁護団は、憲法で保障された労働者及び労働組合の権利を擁護する立場から、共謀罪の創設に断固として反対する。
時間外労働の上限規制に関する声明
安倍内閣が「働き方改革」の一環として導入をめざしている時間外労働時間の上限規制をめぐって、「月45時間」「年間360時間」を原則としつつ、繁忙期には「月100時間未満」かつ「2ヶ月ないし6か月平均80時間」とし、月45時間を超える時間外労働は6か月までとすることで、政労使の合意が成立したとの報道がなされた。
東海労働弁護団は東海地方で労働者の権利擁護のために活動する法律家団体として、過労死、過労自死等の事件を通じて、労働者の長時間労働の実態を目撃してきた。このような経験を踏まえ、東海労働弁護団は、労働者の心身を蝕むような長時間労働を根絶するためには、労働基準法を改正し、36協定でも超えることができない時間外労働の上限を定め、違反企業に罰則を科すことが必要であると考える。
しかしながら、報道された案が容認しようとしている「月100時間未満」「平均80時間」などという例外は、厚生労働省が定めた『脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準』(平成13年12月12日基発第1063号)「過重負荷の有無の判断」に記載されている時間外労働の時間(1か月間におおむね100時間又は2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間)に該当するものである。名古屋高等裁判所平成29年2月23日判決では、虚血性心疾患で死亡した労働者について、「発症前1か月間の時間外労働時間は少なくとも85時間48分であり、この時間外労働時間数だけでも、脳・心臓疾患に対する影響が発現する程度の過重な労働負荷であるということができる。」と判示し、認定基準の1か月の時間外労働が100時間未満の場合でも脳・心臓疾患を発症させる業務の過重性があったことを認めている。
「月100時間未満」「平均80時間」の時間外労働の容認は、裁判所によって過労死の原因となる時間外労働と認められており、このような時間外労働時間の例外は、上限基準として極めて不適切なものであることは明らかである。
電通過労死事件の遺族である高橋幸美氏は「人間のいのちと健康にかかわるルールに、このような特例が認められていいはずがありません。繁忙期であれば、命を落としてもよいのでしょうか。命を落としたら、お金を出せばよいとでもいうのでしょうか。娘のように仕事が原因で亡くなった多くの人たちがいます。死んでからでは取り返しがつかないのです。」とのコメントを発表している。繁忙期ならば命を落としかねない労働を許容して良い道理は全くない。
労働基準法で法定労働時間が定められ、時間外労働は本来例外である。これ以上の過労による人の死亡を防ぎ、「KAROSHI」という言葉を死語にするためにも、労働者の命と健康を守り、生活と仕事の調和を図ることができる上限規制が不可欠である。当弁護団は、時間外労働時間の上限規制として、少なくとも厚生労働大臣告示で定める「月45時間以内」「年360時間以内」に基づいて規制がなされるべきであると考える。